ZTTアーカイブス(たぶん)最後の仕事

外部ディレクターおよびトータルの監修者として去年の3月とか4月くらいからずっとやってきたので、足かけ一年以上のプロジェクト、「ZTTアーカイブス」における自分の仕事がようやく一段落ついた。GWあとに文字通り死にそうになっていたのは、これのせいだ。808 State、The Art Of Noise、Propaganda、ACT、Andrew Poppy、Anne Pigale(そのあと、ポーグスのShane McGowanとKirsty MacCollが出てるがほかのスタッフが担当)とやってきて、途中予想もしなかった事態がいくつも起きてほんっと大変だった。今月23日にリリースされるFrankie Goes To Hollywoodの3タイトルでひとまず大物はだいたい終了。ようやく肩の荷がおりる。

でさ、まぁ相当なマニア以外はこの再発シリーズを全部チェックしているというひともいないと思うんだけど、さすがに一世を風靡したZTTだけあってボーナス・トラックにしてもアートワークにしても、いろいろうるさくてほとんど自由にできるというような環境じゃなかったんだ。自分としても思い入れあるしリスペクトもあるので、墓場荒らしみたいなことがしたいわけじゃないけど、やっぱりレアなものとか、未CD化のものとか、眠ってるならいい音で聴きたいと思うじゃない。でも、小さなマーケットの極東のインディー(80年代にはアイランドと契約していたからZTTはこれまでずっとメジャーから出てたけど契約切れで今回の再発は全部インディーでやってます)に好き勝手にやらせるわけにはいかないよ、出せるだけありがたいと思ってくれ的なスタンスも感じつつ、できる限り海外版とは違う、日本オリジナルなことをできるように、なんとか頑張ってきたわけ。

実績的な部分も認められ、今回のフランキーでは初めて日本オリジナル企画というものができることになって、やったぜ!という感じもあったんだけど、一方で、本来はフランキー世界制覇25周年記念で、UKオリジナルのデラックス盤が出る(つまり、808と同じでアーティストも全面協力した豪華版のCDが企画されているよ、だからその日本盤を出せるよ)という話だった。折しも、Virgin Atlantic航空が就航25周年でフランキーの「Relax」使ってCM打ってるとか、某○○○・○○○がリミックス制作中!とか、これまで世に出てない未発表のミックスやレアなヴァージョンを発掘するよとか、すげーぜ!って噂がどんどんZTTから舞い込んでいたのに、発売スケジュールも決まりいざ実作業の直前になってデラックス盤企画全部が白紙と言われて、文字通り真っ白になったという経緯もあり、素直に喜べなかった。そこから、ZTTとバトルしながらあまりに時間がない中で、どうやって魅力ある日本オリジナルのCDが出せるか、という苦悩の日々が始まったんだよね…。

まず、ZTTに言われたのは、日本オリジナル盤は、最大でCD2枚にDVD1枚のヴォリュームにしかできないという足枷。それに、発掘してくれると言っていたレアな曲に関しては、どんどんトーンダウンして「最低でも探すのに数ヶ月かかるし、探しても何もないかも」的なことを言われる。そもそも、これまでもアナログやカセットでしか出てないものを、これが欲しいとリクエストして日本だけでCDに入れさせてくれという話は全部NGと言われていた。ZTT側から、「これはレアだけど、入れたい?」というオファーを待つしかないのだ。で、すでに発売日は決定してしまっている…いったいどうすれば??????

以前、この日記にも書いたことだけど、ZTTを扱っていたディストリビューターのPinnacleがつぶれてしまったことは、彼らにとって(当たり前だけど)結構なダメージだったみたい。たくさんの名盤を持っているとは言え、現在ではほとんど新譜を出していないインディーのZTTとしては、物質メディア(コンパクト・ディスクなど)で今後音楽を売っていくという方針が揺らいだ、少なくとも2009年度のリリース計画がまるっきり狂ってしまったとしても不思議はない。

ただ泣き言をいっても始まらないので、まずはZTTスタッフをあの手この手で説得し、一方ZTTがオフィシャルに雇っているイギリス人ジャーナリストに資料や原稿の提供を頼み、さらにはネットで一番濃い情報を集めていたマニアに接触して写真や情報をもらえないか嘆願…とにかく使える手段は何でも使った。国内では、大ファンだと聞きつけてリリー・フランキーさんにイラストを描いてもらえるようにお願いし、盤に制約があるなら、自分たちでも欲しいと思える、フランキー全盛時のイギリスでブームを起こしたふたつのアイテム、Tシャツとコンドームを同梱しようと画策する。昔、渋谷陽一がこう書いていたのも励みになった。「最もユニークだったのは、メンバーの顔以上にFGTHというグループ名が、あるいはリラックスという言葉が商品性を持って市場に広がっていったところである。(中略)FGTHはコンセプト、概念、イメージ、戦略なのだ。だから、何もレコードとTシャツを比較して、どっちがどっちの付属物であるなんて事を言ってもはじまらないし、ステージに乗ってる人間だけをメンバーと限定する事もないのである」
じゃあ、我々もメンバーの一員ぐらいの気持ちでやってやろうじゃないかと、そんな妙な連帯感すら芽生えていた(―というか、そのくらい思わないと乗りきれないような事態であったのかもしれない)。

実際にどんな盤ができたのかは、ぜひ手にとって聴いて欲しい。特にベスト・オブ・ベストを作ろうと思って取り組んだCD1は、今まで出てるベストの類より全然イイと思う。出し惜しみせずに、とにかく手に入るオリジナルの7インチ・ミックス(皆が一番よく知ってるコンパクトでフックのあるヴァージョン)を全部集めた。シングルのA面B面以外でも、カヴァー曲とアナログのシングルにしか入ってなかったオリジナル曲なんかも入れて。ZTTにすらマスターがないと言われた曲があったり、最終的には78分の収録限界があって、とにかくフランキーでやってる曲全部、というわけにはいかなかったけど、どさくさに紛れて発掘してしまった未発表曲まで収録できて、自分としては満足できる内容になった。
12インチに収録されていた別ヴァージョンは、基本すでにCDになってるものしか入れられないという話だったんだけど、これもオリジナルの2枚のアルバムのボーナスとして分散して入れるからなんとかOKしてくれと頼んだり、あれやこれや手をつくして、初CD化というものをいくつか掘り当て収録することが出来た。ボックスのCD2の最初に入れた「Relax (Sex Mix Edit)」とかは結構レア。
もちろん、DJカルチャーに組する者として現役のDJたちが作った無数のDJ Remixというのも落とすわけにはいかなかった。今聴くと結構悲惨なドトランスなものもたくさんあったけど、10年後でもかっこよく聴けそうなものだけを選ばせてもらった。特に、これまで日本だとほとんど入手できなかったトーマス・シューマッハとコールドカットのミックスは、ぜひ聴いて欲しいな。
おまけかなと思われそうなDVDも、かつて海外だけで出たクリップ集と多少内容も違い(インタビュー字幕つけたり、ビデオを差し替えたり、誰も聴いたことない「Relax」の激レア・ミックスをこっそりあるところに収録したり、エンコーディングやり直して高ビットレートにしたり…)、これもちゃんと作った。

で、「限定」とか言って延々作り続けるよくある商法とちがい、こちらはほんとにびっくりするくらい少数しか作らなかったらしい(最近は大型店でもストックもたない、オーダー極力少なくリスク負わないという方針なので、レーベルも見切り発車でたくさん作るわけにもいかないようだ)。同様に、そんなに売れると思わず少数生産だった日本仕様のArt Of Noiseのボックスもずーっと売り切れになっているが、フランキーもそんな状態になってくれると作った人間としてはうれしい。

はぁ久しぶりに書いたなぁ語ったなぁ。別に自ら「自演乙!」みたいな宣伝する必要もないのに、なんでこんなことやってるのかね。いや実はね、ちょっと時間ができたから、アマゾンとかHMVとかタワーとかで商品がちゃんと扱われてるかチェックしてみたのさ。そしたら、まだ発売前で聴いてもいないどなたかが、選曲がどうのと文句連ねて最低点にしてるわけ。まぁ別にどんな評価しようが何を思ってどう発信しようが個人の勝手ではあるけど、買ったわけでもない商品の一番最初のレヴューを、文字面だけの判断で最低点つけるってひどくねーか。何のためにやってるんですかね? 自分が気にくわないから買わないのは、どうぞどうぞという感じですけどね。最低限、買って聴くなり全編しっかり試聴するなりして、それでも最低最悪だと思いなおかつ世の中の誰もが買ったら不幸になるボッタクリ商品と判断して初めてそういう断罪するってのがマナーじゃないのかな。自分の関わったものだからというだけでなく、アマゾンの書評でとにかく嫌な気分になるような悪評ばかり、出たばかりの本につけていくというレヴュアーの話が近しいところで話題になっていたのであえてこういうことを書いてみました。

リターン・トゥ・ザ・プレジャー・ドーム(DVD付)
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ウェルカム・トゥ・ザ・プレジャードーム(デラックス・エディション)(紙ジャケット仕様)
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リヴァプール(紙ジャケット仕様)
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※こちらもボーナス曲入ります。
Rage Hard (Montreaux Popfest / Live), Watching The Wildlife (Die Letzten Der Menschheit), Warriors Of The Wasteland (Twelve Wild Disciplines Mix), (Don't Lose What's Left) Of Your Little Mind (12inch Mix)
「Rage Hard」のライヴは、未発表です!