フレーズサンプリングはパクリなのか

ミュージック・マガジンが500号記念だということで過去のレヴューでトップを飾ったアルバムを再度いろんなライターが評価するというお祭り企画に声を掛けられ、イシイくんの『Jelly Tones』を選ぶことを期待されてそうなリストから、敢えてシンプリー・レッドを選んだ。個人的には、彼らが数年遅れのイビサ経由でグッドメン「Give It Up」をまんまサンプル使用した「Fairground」がすごく印象に残っていて、そのことを交えて原稿にした。そもそも、グッドメン自身がセルジオ・メンデスの「Fanfarra」からサンプリングしていて、さらにこのバトゥカーダをループさせてハットやキックを加えてテクノやハウスの曲にリモデルするという手法は、元ネタを変えて延々とやり続けられている。

ダンスフロアにおいては、どんな大ネタを使っていようと著作権だの無視していようと、踊れるモン勝ちという世界だし、あからさまなネタ使いであろうと目くじらを立てるより「イエ〜!」ってバカ騒ぎする連中の方が数が多いんだけど、それがパッケージされてアーティスト名がつけられて商品として流通するようになると急に事情が変わってくる。アングラな12インチですら、written and produced by XXXという一般的に使われるクレジットを避けて、editedとかconstructedみたいな表記をしたりする。作曲しましたよ!と断言するのは憚られるっていう気持ちが作用してるんだろう。逆に、そういう曲がフロアを飛び出してヒットしたりすると、急にサンプルの権利問題が浮上して、先のグッドメンの例でもそうだけど、メジャーからの再リリースに際してちゃんと元ネタの権利者にお金を払ってクリアランスを行うパターンがほとんどだ。すげぇと思ったのは、アンダーワールドの「King Of Snake」って曲で、ジョルジオ・モロダーの手掛けたドナ・サマーの「I Feel Love」の16分シンセ・シーケンスを使っていて、なんとそれだけでジョルジオが作曲者としてクレジットされてる。デケデケデケデケ…ってシンセベースだけですよ。確かに、あれは電子音楽史において偉大な発明なんだけど、それだけで作曲になるということだったら「そうなの??」って目を丸くするスタジオミュージシャンやバンドメンバーの方々は星の数ほどいるわけで。

前置きが長くなったけど、そういうことを考えていて感じたのはダフト・パンクがたくさん古いファンクやディスコのネタを使ってるっていうことでパクリじゃんという論調が強いのは、なんでなんだろうっていう疑問。元々、シカゴで活発だったディスコ・リコンストラクトという手法を真似した上で少し泥臭さを減らしてオシャレエッセンスを加えたのがフレンチタッチだったと考えると、そういう手法が未だに使われていても何の不思議もないと思うんだが。

ニュー・シングルの「Robot Rock」が78年リリースのBreakwater「Release The Beast」をループさせただけ、というのが今世界中で取りざたされていて、確かに一聴して「まんまじゃん…」という感想も抱くし、ここにはほとんど何のクリエイティヴティーも感じられないっていう意見にも賛同する。でも、この曲はアルバムのクレジットでもちゃんとサンプル使用を認めていてクリアランスもされているので、明らかに確信犯。つうか、やっぱりもうやる気ないよという姿勢(もしくは少なくともそういうポーズ)を宣言したアルバムなのかなぁなどとも感じる。

前作『Discovery』でも、10CCとかバグルスとかハービー・ハンコックとか、わかりやす!っていうオマージュ系のネタにはすぐ反応した上で、まぁこれはダンスの方程式でポップスを作る実験なのかなとか深読みして、でもそんなオールドファンのたわごととは無関係に彼らは爆発的に売れてしまうわけだ。いや、実際今聞いてもすごく細かいフレーズの展開とかEQの動きとかまでちゃんと頭に入っていて、これはすごくいいアルバムだったなと思えるんだよね。
ただし、熱心なフレンチ・ハウスのファンサイトDaft Crewで晒されてるサンプルネタとのあまりのそっくり加減にのけ反った後でもそう感じられるかは別の話。
トマは“サンプル使用してない”と言い張ってる「One More Time」にすら元ネタがあったというのは、ちょっとビックリ。これは原曲のアタック部分だけを羅列して別のフレーズに聞かせるという工夫をしてるからわかりにくいんだけど、『Discovery』の曲は、全部ベタなフレーズサンプルなんだな。なので、シリアスなDJたちが一斉にセカンドで彼らにブーイングを浴びせたというのもわからなくはない。ただ、実際のトコ、切り取る対象が違うだけでジェフやロランも似たようなことやってるんだよね…。

Recycle or Dieは、いつから悪になってしまったのか。昔は、それがむしろカッコイイぐらいの気持ちだったのでは。「Blue Monday」がディヴァインにそっくりだったとしても、あの曲の価値が下がるわけではないじゃん。