渚にて

知り合いのトランス好き夫婦に誘われて<渚音楽祭>に午後から繰り出す。渚ってくらいだから、お台場海浜公園潮風公園でやってるものだとばっかり思ったんだけど、東京テレポート駅出てすぐ音が聞こえるフジテレビの真ん前の空き地にうじゃうじゃひとが集まっていている。多少場所は違えど、昔のフジロックとかナチュラルハイと同じようなロケーションかね。まぁ当時は今ほどお台場が施設やビルだらけで観光地化してるっていう状況にはなかったけども。
着いた時点ではまだ3〜4割の客の入りだったはず(その後、暗くなってもまだ入り口から大行列が続いていた)だけども入場待ちが30分くらいはあって、ちょろっとピクニック気分で来たのにいつのまにかレイヴなムードに飲まれてる自分がいる。しかし、いつもこういうパーティに行くと思うけど、あれだけの数のキちゃってる連中、どっから集まってくるんだろう。そこかしこで大昔から一方的に顔だけ知ってる常連っぽいひとを見かけるけど、逆にかつて一緒に遊んでた知り合いは全然見つからず、何だか自分がそこにいることにそこはかとない違和感を感じたりもして。

ラインナップからしてトランスがメインなのは明白で、ぐるっと会場を一回りすると一番端に設営されたテクノがかかってるステージ(太陽)は一番人が少なそう。ただ、配置の偶然なんだけど下がコンクリートで風上にあたる柵の向こうは芝の生えた丘と歩道だったので、会場の中心に行くとひどいことになっていた砂埃に悩まされることもなく、足場が不安定ということもなく、割とゆったり寝ころんだり踊ったりできて快適にぽかぽかした春の陽気を楽しみながら午後を過ごせた。ほとんど移動しなかったから他の様子はわかんないけど、そこだけ取ればすごく気持ちいいヴァイヴが溢れた空間になってた。やっぱし野外はイイよね!ってみんなの笑顔に書いてあるっていうか。

トランスの方のステージに出張してたマユリちゃんの様子を見に行くと、強風で針が飛ぶというすごい状況に悩まされながらも奮闘してる彼女は、なんと昔っぽいトランスをガンガンかけていて、「おぉ、今日はMAYURIじゃなくてNEMESISじゃん!」などと今や誰もわからないだろうことを呟きながら砂埃で山海塾みたいになってる最前列の連中をかきわけて挨拶。いつもより3倍増量って感じの笑顔も拳突き上げて客煽るのもなんかステキでした。

その後、寝っ転がっていたら和太鼓のパフォーマンスですべての機械音が止んだインターバルを経てイシイ君がスタートして、フッと後ろを見たらフロア部分の人数が倍くらいになっていた。野外を意識した大ネタ連発のセットはすごく嬉しかった反面、途中で急に腹が痛くなって、Joris Voorn「Incident」がキターーーー!ってときは便所でウンウン唸っていたりして悲しいボク。ラスト一回音が止まってから、静かにイントロからフルレングスで投下した「Extra」にはちょっと涙腺が緩んだ。もうあれから10年ですよ。森本さんの作り上げたイシイ君のネオ東京ちっくなイメージは良くも悪くも当時の日本のテクノのイメージを規定しちゃったと思うけれど、10年経って世界に類をみないあのロケーションで「Extra」が何千人かの一世代下のレイヴァーたちを熱狂させてるというのはかなり感慨深いものがあった。っていう気持ちを誰とも共有できなかったけどね…。

初来日でこれ以上はないってくらいダメなプレイに打ちのめされて以来全然縁のなかったカール・クレイグは、当たり前だけど技巧的にも構成的にもずっと進歩していて、自分の曲を随所に取り混ぜながら128くらいのBPMで割とマッタリ攻めてきて、ガッツリ上がりますみたいな瞬間はないんだけどちょうど緩くなってきた場の雰囲気にもマッチする感じ。圧倒的にデトロイト比率が高いセットの中で、時折Roman Flugel「Geht's Noch?」みたいな気の狂ったミニマルが引き潮みたいに足をすくってくるのがキモチイイ。
ラスト近く、名残を惜しむようにメトロポリスにこだまする「Hi-tech Jazz」の狂おしいフレーズを耳にしながら帰路についた。ありがとう、あそこにいたみんな。