ターニング・ポイント

爽やかな余韻に浸っていた月曜日、仕事から逃避しようと思ってmixiや2ちゃんやブログやFANBBSを彷徨ってみた火曜日。その落差は激しいものだった。とてつもなく落ちた。

そもそも、会場にいるあいだからなんとなく予感はしてたんだ。solar下のトイレ横で、若いカップルが話してた。「わ〜、こんなテント張ってる。このひとたち、昨日から泊まってンのかな?」……
ヒールでぬかるんだMTBコースを歩くやつ、ずっと音楽知識披露大会に花を咲かせてるグループ、ひとで埋まったステージ前の微動だにしないひとたち。

ゆるさが魅力のフェスだとはよく言ったもので、運営もセキュリティーも進行も客のノリもどっかゆるいのが常だった。日本ランドのころは、大昔から知ってる遊び人たちの顔をいくつも見かけたものだった。
だから、音楽の傾向も客層も楽しみ方もゆるゆるでバラバラでいいじゃんとは思う。それがもとから目指していたものだったんだろうし。
苗場はクソ寒くてあんまり評判良くなかったものの、どっと増えた入場者の数がそれまでのヴァイヴを激変させた印象はなかった。なんで今年は数ある夏フェスのひとつみたいな流れで押し寄せた「客」があんなにたくさんいたんだろう。それだけメジャーになってひとを惹きつけたんだってことなのかもしれないけど、このままどんどん大きくなって興行的に安定した成功を続けることが、果たしてマユリちゃんたちが求めていたものなのかな。

lunarになった巨大なハコを「ウェアハウス」ってマユリちゃんは言っていた。真っ暗で遠い道を、仄かに光るオブジェや先行くひとたちを頼りに進んで、遠くからだんだんキックの音が響いてきて、とうとう出店の光やひとびとの蠢く姿を木々のあいだから確認したとき、あぁそういうことかって、セカンド・サマー・オブ・ラヴまっただなかのイギリスで人生が変わっちゃった彼女のやりたかったことのひとつの完成型がこれだよなって、久しぶりにすごいドキドキした。
かなたから眺めると無造作に並ぶテントの向こうで小高い丘を登っていくひとの列が点のように見えて、重い足を引きずってずんずんと音のする方向に進んでいくと空中にそびえ立ったミラーボールや人力でライティングを変化させるスタッフの作り出す少しだけ非日常な芝のダンスフロアの愛すべき空間が近づいてくる。裸足で一心不乱に踊るひとも、寝てるのかと思ったら脚の先だけちょんちょんとリズムに合わせて揺らしているひとも、それぞれが勝手気ままに、でも不思議な一体感を持って場を作っている感じ。

そういうひとつひとつの小さなできごとに、ドキドキしたり、自然と脚がステップを踏むワクワク感を覚えたり、まったくぜんぜんなんにもそういうことなかったのかな?

暗くて危ないから明かりを点けろ? ドリンクが高すぎる? 並ぶのが嫌だ? 歩くのが疲れる? ゴミ箱を設置しろ? あまえすぎなんだよ!
MAYURIじゃなくてNEMESISと名乗り、バキバキのトランスをかけながら不良ガイジン相手にとんがったパーティーを毎週末やってた彼女を知ってる。コアな少数のファンしか集まらないのに、リキッド・ルームで苦しみながらURポッセを呼んでパーティーを続けてた彼女を知ってる。DJとしてステージに立つことはやめてしまったのに、毎年朝になるとゴミを片付けるようマイクを通して懇願する優しい笑顔の彼女を知ってる。

あそこはさ、彼女が20年近くのときをかけて勝ち取った、理想の遊び場なんだよ。日本流のルールとか意識の違いとか音楽の流行り廃りとか、いろんなものと戦いながらようやくたどり着いた場所なんだ。そんなこと知ったこっちゃねーよと言うんだろう。金払ってんだからと正論のつもりで口を開くんだろう。でも、俺はそんな態度がむかつくよ。なくなったらまた別のとこ行きゃいいじゃんなんて、とてもじゃないけど思えんよ。

初回の壮絶な修羅場と化したフジを経験して、いまでもフジを愛し続けてるひとたちも、昨今の状況に似たようなジレンマを感じてるんだろうか。