声優という文化

昨春にNHKで再放送が始まってからすっかり『サンダーバード』の虜になってしまい、コナミの食玩を集めてみたり、解説本の類を買ってみたりしたんですが、見ていてすごく気持ちいいなぁと思ったのは、丁寧に作り込まれた日本語訳と頭からぶっ通しで(つまり編集なしの一発録りで)演技していたという40年近く前の吹き替えの完成度の高さなんですよね。思わず笑っちゃうような迷訳もある。黒柳徹子や大泉晃という超個性的な声優のうまいとは言い難い演技もある(今考えるとすごい起用だけども、当時は単にNHKまわりにいた声優未経験者の冒険的な人選だったらしい)。でも、オーバーすぎる演技が普通になっちゃったアニメの世界にも、有名どころが使い回されてる感の強い洋画吹き替えの世界にもほとんど見られない渋い世界があるんだよなぁ。

最近はほとんどテレビでやる吹き替えの映画なんて観なくなってしまった。カットされまくりとか、CMがたるいとか、ゴールデンだと家にいないとか、いろいろ理由はあるけど、吹き替えの質が落ちてるって感じることが一番大きいように思う。無理矢理今っぽいセリフにして、全然声優がそれをこなせてなくて違和感がありまくりだったり、元の役者のイメージにあってるか否かとかそういう話以前の問題。バートンのリメイク版が公開されたときにオリジナルの『猿の惑星』がTVでやってたのを観て、当時の声優の巧さと吹き替えの素晴らしさに愕然としたもの。広川太一郎版の『Mr.Boo』あたりもオリジナルを超越したおもしろさっていうことで評価高いけど、たぶんみんなが一斉に同じ吹き替えでテレビでやった映画を観るという機会がすごく少なくなってると思うし、添え物的な位置に堕ちてしまった吹き替えが今一部のマニアが騒いでるような(○○版吹き替えが最高!みたいな)地位を奪回することはないんだろうなぁ。

CG使ったリメイク版の公開にあわせて、67年、68年に公開された人形劇の方の劇場版『サンダーバード』2本をパックにしたDVDが発売されたんですよ。昨夏と、今年の正月にNHKでも放送したものと同じ吹き替えが入っていて、おいらは放送は見逃したのでDVDが初見だったのね。帯にも「黒柳徹子さんの吹き替えを収録!」ってでっかく宣伝されてたし、てっきり大昔の音声を発掘して収録したのかと思った(モノラルなんですよ)。したら、去年、今でも存命もしくは引退してないの役者たち(主要キャラの半分以下)を集めて新たに録ったものだったという。ミンミンの里見京子とスコットの中田浩二はオリジナルと比べても違和感ない演技でプロの凄さを見た感じ。で、問題の黒柳徹子が、もうおばあちゃんなんだよね、これが…。ペネロープの艶やかさや非情さミステリアスさがもう全然ないっていう。彼女の喋りの印象は、『ベストテン』で久米宏と競うように超早口でベラベラまくし立てた感じが強くて、舌が回らずにセリフがスローに聞こえるということがかな〜りショック。

ルパンにしてもドラえもんにしてもサザエさんにしても、長寿な作品で声優さんの印象が国民的に根付いちゃってるものってたくさんあって、これからどうするんだろう…っていう気持ちになるね。CGで画面をきれいにするとかどんな場面でも映像化するとかそんなことばっかやってないで、早いところ音声合成で自在に声の演技をさせられるソフトを開発しないとやばいんじゃないでしょうか。ハリウッドにそういう需要がないから出てこないのかな? ヤマハVocaloidの取材したことあるけど、あれが可能なら技術的には不可能じゃないようにも思う。山田康夫、大山のぶ代クラスだったら億単位の開発費かけてもペイできると思うが。