ディックの『暗闇のスキャナー』改め『スキャナー・ダークリー』

いよいよアメリカでの公開が来月に迫ったこともあって、情報も充実してきた映画版『暗闇のスキャナー』。実際トレーラーを目にするまでホントにやるの?という気持ちの方が強かったんだけども、少なくとも映像表現としてはかなり期待できるものができあがってます。

ジャンキー作家として有名なフィリップ・K・ディックの代表作のひとつ『暗闇のスキャナー』(原題:A Scanner Darkly)は、かねてから何度も映画化の噂が立っては立ち消えになるといういわくつきの作品だった。古くはチャーリー・カウフマンの手によって脚本が書かれ、97年12月に書かれたドラフトをウェブ上で読むこともできる(最終ページがないが、脚本自体は最終行まで載っている)。
また、以前自分が翻訳記事を担当したクリス・カニンガムの02年のインタヴューで、クリスがはっきりとこの作品の映画化にかなり没頭していたことを告白している。

去年は[フィリップ・K・ディックの]『暗闇のスキャナー』をまともな脚本にすることに多くの時間を費やした。SF的な感覚で、この作品が持つ非現実感は丁度いいレベルなんだ。異様さや偏執狂的な感じが丁度いい。でも映画として成立させるためには、かなり変更を加えないといけなかったんだけど、それはしたくなかった。結局、諦めたよ。ドラッグの映画にしたくなかったけど、本質的な要素を失わずにそれを実現する方法が見つからなかったから

カウフマン版の脚本が読めることはついさっき知ったので、今度ゆっくり読んでみたいと思ってるけど、文体は古くさくなっているけども親切に訳されているという浅倉久志御大の新薬、じゃない新訳によるハヤカワから出た新しい文庫もちょっと気になる。山形浩生版をいまパラパラとやっていたら、出た当時は斬新に感じたすごく口語ちっくな山形訳も意外に古くさく見えてきたからだ。3種類も翻訳があってヤク中描写にそれだけのパースペクティヴが与えられてるっていうことがすごくディック的なのじゃ、という気もするし。

そう、それで映画なんだけども、結局脚本・監督は、『スクール・オブ・ロック』で一躍有名になったリチャード・リンクレイターがやっている。その上で、このアニメちっくな画面を眺めて既視感を覚えたヒトは彼のカルト・ヒット『ウェイキング・ライフ』が記憶の片隅で騒ぎ出したってところか。まぁいってみれば、いちど確立した得意の手法をもう一度、ビッグバジェットでポップに昇華することに挑戦してみましたということなんだろう。
エンライトメント(ヒロ杉山)が一時使いまくっていたイラストレーションの技法があるじゃないですか。あれって、素人が想像するよりも結構な手間がかかるらしいんですけど、そう考えるとこの実写を元にしてアニメーションにしていくっていう脳から虫が湧きそうな作業を2時間近くの動画分描いたというのは、それだけですげえ。しかも、思いつきでやっちまった!っていう可能性は、二度目はないわけだからね(笑)。

作品世界の中の監視システムを模した公式サイトもなかなか素晴らしいできです。

ウェイキング・ライフWAKING LIFE
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スクール・オブ・ロック
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スキャナー・ダークリーハヤカワ文庫SF
スキャナー・ダークリー


暗闇のスキャナー
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