CD輸入権ってどーよ?

音楽配信メモが音楽CDの輸入権の問題をキャンペーンし始めておもしろい展開になってるので便乗してみる。

議論の詳細に関してはめんどくさいのでここでいちいち説明しない。詳細は2/5分にある膨大なリンク集をひとつひとつ読んでみてくれ。ものすごく乱暴に言うと、アジアで邦楽のCD売りたいけど現地生産海賊盤に負けずなおかつ皆が買える値段にすると、それがそのまま国内に入ってきてやばいから輸入させないようにしようということだ。さらに法律上はそれが洋楽の輸入盤にも適用されて理屈の上では国内のレコード会社が輸入盤が入ってくるのを止めることもできるという部分がリスナーの危機感につながってる。

最初に自分のスタンスを説明する必要がある。僕は基本的に輸入権容認であると言ってしまおう。法律的な問題点やシステムが恣意的に悪用される可能性に関しては改善する必要があるだろう。その辺の議論はもっと詳しい人たちがいろいろ言ってるので、そちらに譲る。もうひとつは業界保護VS消費者の利益という観点からの議論だが、こちらも両者のエゴと一方的な理屈が平行線を辿るだけであまり深く突っ込んでも意味がないように思う。

ここ数日TRICKFISHで続いている議論でも同じようなことを言ってるんだけど、実際のシステムの制定と運用は悪意だけが先行して行われるわけじゃないので、末席ながら業界の内部にいて、なおかつ大量にCDを買う消費者でもある自分のような人間が提示できるのは、マクロな視点でどういう言うとか自分の財布のことだけしか考えないわがままじゃなくて、現実に照らしての考察じゃないかと思う。


例えば笹山登生氏は『ファースト・セール・ドクトリンの明確な位置づけなくして、レコード輸入権の創設なし』の中で法解釈や判例に基づいた議論を展開しているんだが、僕が一番わかりやすい指摘だと思ったのは文化審議会著作権分科会法制問題小委員会自ら、認められているように、「再販制度を導入しつつ還流防止措置を導入している国はない」のである。という部分。つまり、価格競争がそもそも存在しない再販制度があるのに、さらに輸入防止を方策として行ってるという例は他の国にはないと言っている。レコ協や推進側の言い分が「海外もやっている」だからそれに対する反論のひとつなんだけど、僕はだったら輸入権ばかりを槍玉にあげるのでなく再販制をやめる方向に進ませればいいと思う。そもそも国内盤のCDの値段が高すぎるのが問題だってことは、誰しも思ってるんだから。

購買者の現実の利益を考えたとき、日本のリスナーはバカ高いCDを買わされて損ばかりしているという指摘は必ずしも正しくない。海外の音楽マニアを渋谷に連れて行けば、輸入盤も中古盤もよりどりみどり、しかもすごい価格競争の結果彼らにとってはお宝が格安で売られていることに驚喜する。中古盤に関してはネットでの情報共有が行き渡ってある場所に行けばレアで高価なものがゴミ値段で売られていることは減ったようだが、それにしても日本の一般的な中古盤の値段と品質はすごくユーザフレンドリーであることは間違いない。それにドイツに行けば米盤や英盤(輸入盤)はバカ高いし、イギリスに行けば独盤や仏盤がバカ高いというのは常識で、国内製品が輸入品より高いというのは日本独特の現象だ。しかし、それが国内盤が高すぎるんだという理屈だけで片づくかというと、そうではない。輸入盤が安すぎるんである。ロンドンのHMVで英盤を買おうと、ベルリンのWOMで独盤を買おうと、渋谷で輸入盤を買うとの実はたいして値段は変わらない。ドイツでCDを生産して国際流通に乗せて世界発売してみた経験から言うと、卸業者は3種類の値段を設定していた。1一般小売店 2大型チェーン店 3輸出 で、結論から言うと1が高くて3が一番安い。もちろん、レーベル側でそういう設定はやめろと言うこともできるだろうが、相対的に高くなるのでインポーターが自社の製品を買ってくれないという事態に陥るだけだろう。さらに、何十万という単位で売れるような商品になると大量購入でさらに値段が下がる可能性がある(しかも2の国内大型チェーンと異なり、日本に輸出された商品は余程のことがない限りわざわざ国際輸送費をかけてまで返品されないから多少値段を下げても売りたいと思うに決まっている)。


池田信夫氏の論にも的はずれな部分がある。浜崎あゆみのCDが逆輸入されて廉価で売られても著作権料は入るはずだからアーティストは困らないという仮説だ。実際に試算してみなければ結論は出ないけど、海外に何かを売り出すような場合、大抵戦略的な契約だったり価格づけがされてしまう。いま騒がれてるアニメなんかにしても、強気で契約しようとしたら相手にされないからだいぶ譲歩することになる。長い目で見て将来的に利益につながればいいという考え方だ。そうすると、海外のライセンス先もある程度の利益を確保するし、国内の権利者(レコード会社など)も人件費などを考えたら大損でもいいというわけにはいかないし、入ってくるお金からそうやってマイナスマイナスしていけば、当然最後にアーティストに入ってくる分はものすごく少なくなる。もともと100あった売り上げが、70に減って、その分逆輸入分が50増えて、トータルで120になりましたといっても、アーティストの手元にそれに応じた著作権料が入ってくるわけじゃない。

販売価格に対する印税というカタチでアーティストへの支払いがされる以上、レコード会社が「今3000円で売ってるものが、逆輸入を認めるとアジア値段の1000円分の印税というのがすごく増えますよ。それで国内盤も対抗して安くせざるをえないから、すぐに2000円以下にすることになります。それに応じて印税収入も2/3から半分くらいになりそうです」って言われたら、アーティストだってはいそうですかと了承するわけはないんだよね。だから、それがレコード会社の詭弁という見方もできるけど、一概にアーティストも損しないんだという論に持ち込むのはやりすぎだと思う。


例えばDVDなんかは、最初からリージョンコードが導入されてアメリカの映画産業が傷つかないような仕組みになっているわけですよ。大昔から世界規模で収益を上げる仕組みができているところに日本の弱小コンテンツ産業が立ち向かおうとしているわけ。でも、例えば日本のアニメファンなどは日本のアニメDVDが高すぎるっていう文句を言う。まぁ確かにそうです。米市場に打って出た作品のDVDなんかは、戦略的に格安な値付けで日本版より内容が濃かったりする。でも、逆にアメリカのアニメオタクからしたら、毎日無料で大量の新作アニメが地上波でたくさん観られてグッズなんかも安価で大量に手に入る日本は天国みたいに思えるでしょう。アニメファンの一部には、正規盤に金を使うことで制作者に還元しようみたいな意識を持ったり「日本のアニメ」って部分にプライドをもってそういう価格差だけでは測れない利益をも考えようというひとたちが出てきているんだよね。


輸入権を設定することでJ-POPのリスナーが損していいのか? うん、いいんじゃないかなと思う。洋楽の輸入盤まで差し止められたら話は別だけど、クラシックなんて激安(10枚組で5000円とか)なんだし、いくらでも安いものは街にあるんで。J-POPしか聴かないひともそれ以外のものを聴く機会になるかもしれないし、そうやって相対的に邦楽の高値に嫌気が高まって売れなくなっていけば再販制の撤廃含めて価格体系自体が変わっていくと思うし。アジア全域で米英以外のソフトが大きな需要を生むなんてことはこれまでなかった好機なんだから、今はお偉いさんたちがどうやってそこに道をつけるのかお手並み拝見でいいんじゃないのかな。
そもそも韓国のJ-POPファンなんて、これまで涙ぐましい努力をしてCDなりを入手していたんだよね。そう考えたら、そこに対して正規のルートで供給がなされるということをまず確立してあげればいいじゃないかという気持ちになるんだけど。甘ちゃんすぎるかな? 自分たちでも国内盤と欧州盤の価格差は悩みの種で、どうしても欧州盤の方がやすくなっちゃうから「海外では出さない」とか「時期を大幅にずらす」とか「日本盤はボーナスつける」とか小手先の回避策しか思いつかないんだけど。千枚二千枚の規模でひーひー言いながらやってるインディーはどこも同じだと思う。2000円程度で売るのは、かなりぎりぎりの値付けなんですよ。それが当然になっていくなら、印刷やプレスをアジアに出すしかなくなってくだろうね。幾多の製造業がたどってきたのと同じ、空洞化の道を歩むわけか…。