だれがやる? おれがやる!

CASSHERN』初号試写。
すごかった。あら探ししようと思えばいくらでもできるけど、そんな無為なことせず、美しき映像と素晴らしい音響を徹底し己の内臓までさらけ出して勝負した紀里谷監督を賞賛したい気持ち。

樋口さんが「ホントに作っちゃったんだ」と呆れたというような噂話を聞いたが、実際にあの(いい意味で)アニメちっくにデフォルメされたアクション・シーンを見せられてしまうと、押井守が『アヴァロン』でやろうとしたことや『マトリックス』が突きつけた日本の映像制作者たちへの挑戦に対する回答になっていると思えるし、今まで観たことない映像が体験できる。
そのエフェクトと合成の賜物というべき「動の」部分と、人間だけで展開される写真家の面目躍如といった丁寧な色合いで表現される「静の」部分。それらをつなぐモノクロパート(もうひとつ、個人的にすごく気に入った挿入カットがあるんだけど、ネタばれるので言及しない)が錯綜するのは、ガチャガチャしててめまぐるしすぎるという意見もあるかもしれない。でも、ちゃんと全体を追いかければ時間軸や表現の差異の必然性も見えてきて、なるほどと思うだろう。PV的な部分を敢えて指摘するなら、そういうところになるかもしれない。ミシェル・ゴンドリーが『ヒューマン・ネイチュア』で採り入れたミュージカル的な演出にも同じような感触があって、あっちは(たぶん自分がミュージカルが好きじゃないこともあり)「どうよ?」って思ったけど、今回のそういう実験的な手法は楽しめた。

扱っているテーマが重いだけに『キャシャーン』であることを忘れてしまうこともあって、ときどきそれを強制的に思い出させられるのだけれど、その裏に横たわっているものに思いを馳せると作家の命を削るような仕事に考えが及ばざるをえず、ますます沈痛な気持ちになる。試写が終了後に「ブラボー」みたいな雰囲気にはならず、どちらかというとシーンとなるという話は、だから本当だ。何も考えず、ただただドンパチやヒーローの勇姿を見たいという向きには、薦めない。でも、そのくらいの軽い気持ちで挑んでも、どっと疲れはするだろうけれど得るものは大いにあるんじゃないだろうか。

終了後に話したのは、斜に構えたり皮肉ってみたり、自分の限界を設定して言い訳からスタートするんじゃなくて、真っ正面からどうだ!ってぶつかることが重要なのかもしれないなぁということ。2時間21分という尺も含め、すべて出し切ったという感じの強いデビュー作。なかなかここまで思いきれるものじゃないよ。オトコだなぁと思う。

たぶん、PVの世界やCMの業界では、どうやってこきおろすか手ぐすね引いて待ってるようなところがあるんじゃないかと思うが、そういうところには衝撃が走るだろうね。スパイク・ジョーンズのような成功の道筋を切り開ける日本の才能はでてこないのかなと思っていたけど、はじめてその可能性が見えてきた。