リッチな音楽環境

ある大手企業のCMの仕事があって、アーティストと一緒にCM音楽制作会社のスタジオに入って詰めの作業をする。かつてはメジャーでの仕事もポツポツあったからゴージャスな環境でお仕事というのもたまにはあったけど、最近はそんな仕事は全然ないので違和感ありあり。まぁ乃木坂の新しいSMEのビルとかもすごいゴージャスな環境だけど、普段足を踏み入れるオフィスの中はまぁ雑然としたものだし、あんまりそういう経験はしないわけです。

大メジャーといったってかつてのように湯水のごとく金が使えるわけじゃないし、CM音楽の世界の方がもしかしたらよっぽどリッチなのかなぁなどと思ったりして。スタジオの音響設備に金がかかってるのはまぁ当然としても、そこら中に40インチ・クラスのシャープのアクオスが置いてあって、これだけでいくらかかってんだろってつい計算してしまいそうになる主婦くさい私。ソファも当然総革張の超高そうなのが鎮座してらっしゃいます。革張りのソファが大好きなので、触感を確かめるのにスリスリしちゃう。

ちまちまCD作って一枚200円の利益とか言ってること考えたら、たった15秒でどかーんとまとまった金が動くCMの世界なんて夢のようなんですけども、現実には職人的にいろんなひとたちの顔色をうかがいながらオーダーにあわせて何でもやらなきゃいけないわけで、そんな楽な仕事じゃないなぁと。今日の現場でも、代理店から映像の制作会社から、とってもたくさんひとがいらっしゃいまして、みなさんおっしゃることが違うもんですから、もー誰の言うことを聞けばいいのかわかんないし、ずけずけと失礼なことは言われるし、精神的に疲弊してしまうような環境でしたわ。ただ立ち会ってるだけのおいらがそんななんだから、アーティスト本人はもっとだろうけどね。

そもそも、船頭が多すぎるんだよね。紆余曲折を経て今日OKになったものだって、クライアント様はご覧になってないんで、NGかもしれない。末端の我々が一番最初の打合せとかで話していた情熱みたいなモノとかは、ゴーカな設備を通してどんどん漂白されていくようだったし、ヒゲに短パンTシャツのわけのわからない連中から最後はスーツの方々にモノが手渡しされていく段階でポロリポロリと何かが抜け落ちていくような、虚脱感というか徒労感というか。なんか日本のシステムのダメなところを見てしまった感じ。海外の広告系の仕事をしたこともあるけど、比べるとやっぱりもっとストレートだしスーツと短パンでも一緒になんかできるじゃんか!っていう達成感は得られたんだよね。どーも、日本ではそもそもあっち側のひとたちは交わろうとしてくれないし。虫けらでも見る感じにしか扱われないっつうか。

ボロを着た我々とは無縁そうな高額商品の宣伝を手伝ってるっていうのも、よく考えたら不思議なんだけど。あのリッチな環境で日々秒単位の音楽を作ってる方々も、そういう無駄なことを考えないように考えないようにしながら、ちょっとずつ魂をすり減らしているのだろうか。

たった何百円かの差の盤が買えると買えないとか、そんなことで大騒ぎしてるのがアホらしくなってきたよ…。