『バットマン・ビギンズ』の酩酊表現

もう随分前に観に行ったけど忙しすぎてメモ書きすらしてなかった『バットマン・ビギンズ』。クリストファー・ノーランが監督してなかったらまず劇場へなんて行かなかった(アメコミ嫌い+ゴス苦手+今までのシリーズまったく思い入れナシなので)映画なんですが、思いのほかよかった。『インソムニア』はダレダレで冒頭の冷え冷えとした映像以外は見るところないなぁと感じていたので、今回のメジャー感と自分のやりたいことがものすごく高い次元で融合されてる感じにはかなりのプロ根性を感じましたわ。

で、今さら内容のことを書いてもアレなので(劇場で観ることをオススメ!はしておきます)本編とは無関係なことを書くと、この映画、すげードラッギーなんですよ。宿敵として登場するスケアクロウキリアン・マーフィー)が必殺武器として使用するのが強力な幻覚剤。霧状のこいつを吹きかけると相手は逃げ場のない超BADなトリップに陥り、そのうち精神崩壊を起こしてしまうという。そのBADなイメージも映像化されてるんだけど、こーゆーもの見せないで欲しいDEATH!と叫びたくなるいや〜な感じ。しかも、それを街中に散布してしまおうという計画がクライマックスの危機に設定されてるんだけど、それってまるで自家製アシッドを水道に混入させることを企てたオウムじゃないかっていう。ん、ティモシーもそんなことを考えていたんだっけ? まぁいずれにしても一大娯楽映画のプロットとしてはかなり愉快なモノであることにかわりはない。

それから、主人公ブルース(クリスチャン・ベール)が修行の最後に、ラーズ・アル・グール渡辺謙)率いる“影の軍団”からテストを受けるってシーンがあるんだけど、恐怖心を克服するために用意されるのが謎の煙。裏番(リアム・ニーソン)がご丁寧に「ゆっくり吸い込め」とかってそれを差し出しブルースもそれを肺にいっぱい吸い込んでしばらくするとと、ぐにゃ〜っと視覚や聴覚が歪んでいく。これがまたえらくドラッギーなんです。ミシェル・ゴンドリーの撮ったストーンズのPVも相当キちゃってる映像だったけど、あれはどちからというと新しい表現を追求した結果生まれたもんだと思うんだ。こっちは完全に狙って作ってるからたちが悪い(笑)。

軽い気持ちでぶっ飛んだまま鑑賞なんてひとは国内ではいないと思うけども、実際やったらかなり怖そう。少年ブルースが鑑賞中の舞台の演出でみてしまったコウモリの幻覚(=彼のトラウマ)に恐れをなして、耐えられなくなって父親になきついて劇場から退散するっていうシーンもあったりするので、心の闇の作り出す恐怖をさんざん考えて作ってるだろうし、そんなシーンを入れたことすら確信犯な気もする。

それと年配テクノ・ファンに注目して欲しい事実。今作のキリアン・マーフィーは若かりしころの故キャスパー・パウンドにそっくり。特に鼻と唇の感じ。なんか懐かしくなった。