FREE CULTURE的にのまネコ騒動を考える

 「表現の自由vs知的財産権著作権が自由を殺す?」(原題:Freedom Of Expression (R): Overzealous Copyright Bozos And Other Enemies Of Creativity)というこの夏にでたばかりの本がある。

表現の自由vs知的財産権―著作権が自由を殺す?
表現の自由vs知的財産権

 レッシグも賞賛の言葉を寄せてるんだが、まぁレッシグ的FREEな文化(“無料の”という意味ではないからくれぐれもまちがわないように)を取り戻せっていう議論を補強するような内容の書って要約しても怒られないだろう。ただ、こいつがむちゃくちゃにクールでオモロイと、そのあまりにひどい翻訳を差し引いても思えるのは、70年生まれと若い著者が、学者ではなくジャーナリストだっつう点につきるだろう。なんつっても、ケンブリューくんは遺伝子配列の特許について論じる一方で、コールドカットやチャックDパブリック・エネミー)、スコット・ヘレン(プレフューズ73)とかスキャナーにまで直接取材しているばかりか、KLFについて語った直後、約7ページにも渡ってマッシュアップについて解説する。
 随所で誤訳や意味不明の日本語をつぎはぎしてしまった田端暁生センセーを責めるのはちょっとかわいそうなくらい、相当ぶっ飛んだ事例をたっぷりと盛り込んだ挑戦的な著作権研究書、それがコイツの正体であって、俺は書店の法律コーナーの知財関連書籍の棚で見つけたんだけど、ホントは野田努の本の隣でも並べて欲しいようなシロモノなんだ。

 この手の本の主旨はだいたいのところ、大企業とか著作権団体が牛耳る「権利」がどんどん強化されると、自由な創作活動は訴えられんじゃねぇ?って萎縮してしまい、本来もっとゆるやかで自由であったはずの著作権っつーものが、一部の金に目が眩んだ連中のマフィア的脅迫や集金作業を守って、一方でパブリックに供されたほうがよっぽど幸せな余生を送れたはずの数多の作品を活かされることなく腐らせてしまうっていうものだ。ただ、この本がすごく馴染みやすいと思うのは、昔書いたことのある「ハッピー・バースデー」の歌の件とか、もうお腹いっぱいですってくらい、いかに記憶力のないアホでもわかるってくらい死ぬほどたくさん笑える実例がてんこ盛りなことだ。こーゆーのをたぶん、マーケティング的にはキャッチーな要素だとか言ったりする。
 で、思い当たるのは、あれだ、例の「のまネコ」。

 上で書いたこと、額面通りに受け止めると、「わはは、だから言ったろう。エイベッ糞の悪行、ここに暴かれり! えらいひとのお墨付き、げーっっと!!」的な感じ。でも、果たしてそーなんだろうか。
 別に「のまネコ」とか「マイアヒ」とか、クソおもしろくもないのでどーでもいいんだけど、あれには騒動当初からなーんか違和感を感じていた。エイベックス側の商標権登録の動きは、たしかに以前コナミが「パトレイバー」だとか「スラムダンク」だとか他社(者)の人気作品や一般的な単語を登録しまくった件だとか、角川が「NPO」「ボランティア」という言葉を商標登録して猛烈な批判を浴びた件だとかを思い出す。ただ、一方で類似商品から身を守るという商売上の一般的な慣習や、「のまネコ」がUNKNOWN WRITER(S)の作ったモナーや類似アスキー・アートの寸分違わぬコピーではないことを考えたら、まったく不当なやり方とは言えないじゃんと。美学なのかユートピア思想なのか単に法律とかうぜぇってだけなのかわかんないけども、既に「電車男」みたいな先例もあるのに、そしてタカラの件もあったというのに、西村氏はなんで財産を守る手だてをとらなかったんだろうね。訴えられたらとことん裁判でもなんでもやったるという姿勢も、お上に咎められれば匿名とか言ってないですぐ情報出しますわっていう逃げ道も、すんごく法律のまわりをぐるぐるまわってるじゃない。だから、5秒ほどは笑えたまるっきり子供のケンカなタコの反撃よりか、巧妙に仕掛けた法の罠で、おまえら「のまネコ」とか言ってんじゃねーよ訴えるぞ的なやり方をしてもらったほうがもっとでっかい歓声が起きたと思うわけ。そう、ケンブリューくんはね、「表現の自由」って商標登録しちゃったんだよ。

 まぁ西村氏がどう考えて何をしようが勝手なわけだし、そういう子供っぽいところが好きヨって意見もいっぱいあるかも。ただ、今回の件で結果的にフリーライドしちゃったのは、マフィア的脅迫を行ったのは、いっせいに目くじら立てて不買運動とか騒ぎだして巨悪に鉄槌を下してるような気にでもなってる匿名の方がたなんじゃないかと。
 歴史的には、あのエイベックスが、SMAPと同列にアングラFLASH2ちゃんねるを利用して商売しました。ちゃんちゃん。というほうが愉快だったと思うのよ。しかもなぁ、キャンプファイアーで勝手に歌を唄うと著作権侵害!(しかも最高10万ドル罰金だゴルァ)ってガールスカウト脅したっていうASCAP(そう、別に非道いことやって批判を浴びてるのは我が国の著作権団体だけじゃないんです)みたいに、最初からけんかごしだったわけじゃないんでしょ? 当初は「今、FLASHが熱い」的なノリだったのが、たぶんいまやどこの会社も、ああいう輩と関わりあいになるとヤバイと怖じ気づいてるだろうし、いつのまにか戦犯にされてたっぽい「マイアヒFLASH」の作者の女性の心情を察すると間接的に結構な数のひとたちの創造性は萎縮してしまったんじゃないかとも。

若気の至り AVEXへの怒り 10/8追記

松浦社長がmixiで謝罪コメントを出したとか。
http://www.yomiuri.co.jp/hochi/geinou/oct/o20051006_20.htm
http://www.zakzak.co.jp/gei/2005_10/g2005100702.html

なんかそんなものを大々的に取り上げる読売もどうかと思うし(まるでmixi自体が彼のサイトと読めるような記述だし)、火に油を注ぐような書き方のZAKZAKに至っては…。
メディアも含めて、この件に関わってる人間には皆、想像力というものがないのかな。

それはそうと、エイベックスという会社のことを考えていたら急に昔のことを思い出した。かつて、ファースト・アルバムが出たばかりのプロディジーが初来日した。会場は<ジュリアナ東京>。招聘元は、ジュリアナのCD出してガンガン売っていたエイベックス。当時、XLのライセンス権はソニーじゃなくてエイベックスが持ってたのだ。当時血気盛んなバカだったワタクシは、自分でやってたミニコミ(!)でエイベックスの宣伝にオファーを出して、プロディジーの取材をした。そんなものOKするなよと今になると思うが、当時プロディジーなんて誰も知らないような存在だったしほとんど取材申し込みもなかったんだろう。まだ、エイベックスが町田にあった、のどかな時代だったし。

単なるキャバレーの出演バンドのようにこぢんまりと発表された来日に怒り狂ったワタクシは、もったいないからといって勝手にフライヤーというか小冊子を作り、大量にばらまいた。ファッション的でガキお断りというようなイギリスのクラブの風潮へのアンチテーゼで人気を得たのがレイヴで、そこでヒーローになったのがプロディジーだったのに、なんで彼らがスノッブとハイプの権化みたいな場所で肉欲の固まりどもを前に演奏しなくちゃならんのだと煽りたて、あまつさえ“ジュリアナを乗っ取れ!”とか言ってスーツやボディコンじゃないと入場できなかったあの場所にもぐり込むために、“中に入ってから着替えればいい”などとHOW TOまで載っけた。

当日、会場に行くと既に普段とは明らかに違う異様な雰囲気が漂っていたが、エイベックス担当者に取材のお礼をすると、たまたま横にいたジュリアナの関係者だかエイベックスのひとだったか、とにかく上の人間に紹介されてしまった。すると、「あぁ、あのチラシの…」と一言。で、相手がものすごく苦々しい顔になったから青くなり「はぁすみません」とか適当に会釈してとっととフロアに逃げた。
今考えると、サラリーマンだった自分になんであんなバカができたのかわからない。まぁ近所の公園にサウンドシステム持ちこんで即席パーティーおっぱじめ、警察呼ばれてしまったというさらに上行くバカもいたんだけども。

いつのまにか汗だくのTシャツで踊る数百人に占拠されたフロアと、何事かと唖然とするお立ち台のギャルたちのコントラストがおもろすぎた。
ただ結局あの蛮行は、なんも変えなかった。それでいいと思ってたエイベックスのひとたちには痛くもかゆくもないバグだったんだろう。本人たちにも、Yellowとか東京にはたくさんいいクラブあるからなんて悪知恵入れたのに、その後もアーティストの望むようなオールナイトのパーティなんて何度来てもブックしてもらえなかったし、しまいには東京ドームでのavex raveなる意味不明のイヴェントに無理矢理出演させられ「あれはレイヴじゃない…」と苦言を呈するハメになる(笑)。

まぁ、そう考えるとあの会社って昔から憎まれ役だったんだな。