難産

実際に作業をしていたのは一年以上前だっけ…。かなりタイトなスケジュール進行だったから、遅くとも今年の夏頃にはでるのかと思っていたナムコのレースゲーム『R: RACING EVOLUTION』がようやく発売になった。
そもそも『エースコンバット3』で脚本参加したときにナムコに我々を紹介してくれたのが、今回の作品のディレクター寺本さんだったんだけれど、そのあとも何度か相談を受けたり打合せであったりしたことはあっても、実際に仕事をするのは今回が初めてで『AC3』のときほどではないものの、なかなか密度の高い時間を共有した。

今回の依頼は、英語の脚本と日本語字幕っていう依頼だったので、自分と、いつもチームを組んで国産ゲームの英語ローカライズをやっているライアンが中心になって作業した。FNで脚本担当というと佐藤大なんだけど、時間もなかったし、一度日本語で仕上げてからまたそれを英語にするということをやっても意味ないだろうということで、最初から英語で考えて英語でセリフを作っていくことにしたんである。当然、海外市場でもできるだけそのままで出せるということを前提にしているわけで、設定やストーリーを作る段から結構なプレッシャー。

で、実際にゲームのストーリーを追いかけるモード(「レーシングライフ・モード」と言うらしい)で登場するのが上の女性キャラなんだけど、かなりお色気たっぷりで、その辺はゲーム的なけれん味を存分に効かせている感じ。映画やアニメと違って、ゲームはやっぱりシステムが一番重要だから、仕事を頼まれた時点ではキャラやムービーの本数や尺も決まっていて、それに従ってガチガチに仕上げないとダメと意外に制約が多い。物語が最重要になるRPGなんかはまた別だろうけど、予算や納期、システム上の不具合など、さまざまな要素であっさりと予定が変更になったりもする。今回みたいな、レースという主軸があるとき、補助役の物語に割ける容量、労力は自ずと限られてくるし、その中でどうやったらベストなものが引き出せるのか試行錯誤するのが僕らみたいな助っ人の役目とも言えるかも。

女性ドライバーたちが主人公として活躍し、なおかつメインのキャラはまったくの素人からレースに参入して成長せねばならず、しかもゲームとしてのおもしろさを演出するために通常のサーキットを転戦していく以外に、ラリーなどにも出場する必要があるという課題をクリアさせるのは結構大変だった。レースの世界で活躍している女性ドライバーは存在するけど、現実に即したリアルな設定だったらありえない世界観になってしまうし。あーでもないこーでもないって議論してかなり細かい設定を最初に作ったものの、それがごく短いドラマの中で説明しきれるわけでもない。なんでこうなっているのかっていう疑問には全部答えられるようにしましょうという前提(ゲームで遊ぶ人だけじゃなくて、共同作業する上で、キャラにモーションつける人やセリフを喋ってもらう役者に対しても、同じ認識が持てるように)でそういう作り方をしたわけだけど、もったいない部分もあるし、たぶん伝わらないだろうなぁっていう部分もある。映画『28日後…』でロンドンの滅びていく様子(劇中では描かれない)が宣伝としてコミックで展開されたっていうアイディアみたいに、どこかで補足できたらいいなと思っていたけど、それも売り上げ次第なのかも。そもそもゲーム全体が日本では売れなくなっているので過度な期待はできないけど、もし興味を持ったら買ってプレイしてみてください。

と言いつつ、自分ではまだやってないんだけど。夕方に寺本さんがわざわざ完成したサンプルを持参して挨拶に来てくれたんだが、ホント売れるといいなぁ。ついこのあいだ、翻訳の仕事のために『WRC』ってラリーのゲームをやってみたら、むちゃくちゃ難しくててんでダメだったので、以前の『リッジレーサー』シリーズより実車の挙動に近くなってるというコレはやっぱり全然クリアできないかもしれないけど…。