非日常を演出するさじ加減

日本ランドも初めて行ったときは「うぉ〜、なんじゃこりゃあ!」っていうワクワク感がすごくあったものの、何年も続くと段々と勝手知ったる…という状態になってしまっていた。経験値が上がればそこで一晩過ごすのは楽で快適になっていく一方で、そこにいること自体には驚きがなく、つまり慣れが勝ってしまうので雰囲気だけであがるというような感覚はどんどん薄れていく。
そういうわけで、ガラッと開催地を変えた今年のメタモルフォーゼは非常に楽しみにしていたわけです。フジロックには一度も行ったことがないので、苗場で音を聴くという体験自体が初めてだったし。

しかし、実際には、ちょっとした公園とあまり変わらないようなロケーション(周りを山に囲まれて小川が流れているという部分はたしかに山中のレイヴっていう感じなんだけど、夜になってしまえばそれらは見えないし、天気が悪くて満天の星を寝ころびながら眺めつつマッタリ音を聴くというような楽しみもなかった)で、果たしてこれが正解なのかと疑問に思った。

もっと不便な、トランスのパーティみたいなロケーション&運営にしたらあれだけのひとを集めることは無理だろう。光の演出や上質なサウンドシステムだって、本当に何もない山奥では実現不可能だ。でも、そのギリギリのところをうまく狙ったために、年々動員が増える人気パーティにメタモが成長できたんだと思う。だから余計に、今回のフジロックのシステムを流用しただけみたいなこぢんまりまとまった会場の作りは、もったいないなぁと感じてしまった。

バンバータがやってるときに、トイレ行きがてら遠くからソーラーの方を見たら、コンクリートのステージ前の部分はぎっしり人で埋まってるんだよね。4000人ぐらいがすし詰めでステージを見ているという。ソーラーは、セットチェンジのブレークが毎回入るライヴばっかりやってるメニューだったせいもあり、なんだかコンサートに来ているように錯覚した。いわゆる4つ打ちのDJミュージックだけじゃないところがメタモの良さなんだから、ライヴを楽しみに来てるような層がたくさんいることは悪いばかりじゃないはずなんだけど。日本ランドでは、みんな前の方に陣取るより傾斜のある芝生で寝ころびながら聴くっていう感じで、そんなにびっしり人がいるっていう状態には滅多にならなかったはず。

メンツは一番豪華なんじゃ?って思っていた!K7テントは、単なる食い物屋台のBGM的な位置にあり、出音は悪くなかったのに、とてもじゃないけど長居する感じじゃなくて、ほとんど通りがかりに立ち止まる程度しか聴かなかった。スニークが神懸かり的なプレイをしてくれたルナーのほうも、すぐ横が関係者用の駐車場で、頻繁に車がライトつけて通ったりするので雰囲気もクソもあったもんじゃない。こっちも床がコンクリで、どこにも寝ころべるような逃げ場はない。

各人が何を求めていようと、どんな楽しみ方をしようと、自由ですというのがメタモの一貫したスタンスだと感じていた。たしかに、ある程度の「非日常」がそこに演出されているんだけれど、とてつもない非日常(つまり「解脱」とか「自然回帰」みたいな嘘八百のご託がついて回るような)を維持するために客の側にドレスコードからそこでの些末な行動原則まで強要するようなこともないし、逆に消防法や当局の指導でしばられるわけでもない。だからこそ「ちょっと××をチェックしてくる」と行ったきりそこにハマって最後まで帰ってこない友達がいたり、2年続けて見た挙げ句「こういう場所でDCPRGは絶対聴きたくない」と確信できたり、ゴリゴリのテクノでニコニコ踊ってる野田努を見かけて「あんたこないだレイヴは死んだみたいなこと書いてたやん」みたいなことがあったりしたんだと思う。単なる印象批判になってしまうけども、今年の苗場にはそういう自由な空気は残念ながら流れていなかったと俺は感じた。HIFANAのステージは感動するくらいすごくて、その後のあまりにオールドスクールなバンバータがそれを観ていたかなぁとちょっと気になった。「おい大将、あんたが大昔蒔いた種が、東洋の島国に流れ着いてこんな風に育ったぜ」って言ってやりたい気持ち。でも、フロアを埋め尽くした客にしても、余韻に浸るでもなくどーっとセットチェンジでいなくなってまた何事もなかったように次で一斉に戻ってくるわけで、そんな様子を見てると、フェスならではのケミストリーなんて起きようもないんじゃないかと感じた。

たぶん、今回の会場の作りだと、ほとんどの客にとってテントがすべての中心になってしまう。テントから顔を出せばすぐに目の前のソーラーのステージが見えて、音も聞こえてくるというのはラクチンだし、嬉しい反面、ドッツドッツーっていうルナーのテクノな残響とビビビブブ〜ンみたいなソーラーの地鳴りが混じってしまうのは勘弁してくれという感じで、こんな俺ですら「ルナーのテクノうるせえなぁ」ってときどき思ったほどなので、レヴェル・ファミリアやトニー・アレン目当てに来たようなひとはなおさら一番離れたルナーにわざわざ行こうと思うことなどなかったんじゃなかろうか。

昼2時ころから踊り出して、途中トニー・アレンやROVOがやってるあたりで低音に揺られながらうとうと仮眠を挟んだにもかかわらず、結局朝方6時ころにはダウンしてしまった。さすがに体力がついてかない。肉体の衰えを呪う。フミヤとウィラロボスとKEM DJ聞き逃したのがむちゃくちゃ心残り。もちろん欲望の赴くまま全部を楽しむなんて無理なんだけど、ハードミニマルとレゲエが同時にかかってるというセレクションが続く限り、また行きたいと思います。元の場所に戻ることは不可能だろうから、来年はぜひ、あの環境を使いこなして欲しいもの。