物議かもしまくり映画『ミュンヘン』を観る

すでに一般公開まであまり時間がないという理由もあってか、普通の試写室ではなく、丸の内プラゼールというかなり広い劇場を使っての試写。一応完成披露試写という名目だったけども、既に昨年末に本国では公開されているのに「完成披露」とはこれ如何に?

上映前に襟川クロが出てきて、サプライズ(?)ゲストで主演のエリック・バナ(写真の右側、左はマチュー・カソヴィッツ)登場。スピルバーグを天才だと誉めちぎったような話に終始してあまりおもしろくはなかったが、“通常演じた役から抜けるのに半年かかるが、昨年10月にクランクアップして日が浅いから、身体の半分はアヴナー(パレスチナの要人11人を暗殺するミッションに駆り出される本作の主人公)のまま…でも、心配しないで襲撃したりはしないので”というギャグは少し笑えた
(ホントは、妙にJ-WAVE英語っぽい発音でミュンヘ〜ンとか言うクロさんのほうが笑えた、というのは秘密)。

最初のターゲットには引き金を引くことすら躊躇していたのがどんどん冷酷な殺人マシーンのようになっていくアヴナーが、アメリカに逃亡して、ようやくこんなシャレを言えるくらいになったのね、なんて虚実混同した妙な感慨を抱いてみたり。





映画自体は、心揺さぶられるとか感動するとかいう類のものではなく、どちらかというと心はどんどん凍てつくように思うが、2時間44分もの長尺を感じさせない見事な役者たちの演技と重層的に築き上げた脚本に舌を巻く。米国版トレーラーで感じた凄まじいまでのサスペンスと編集の妙は本編では歩調を緩めたものに感じられたけども、その分じわじわと浸食していく狂気や恐怖感にリアリティーが与えられ、ターゲットになるパレスチナ人たちや、謎のフランス人情報屋=ルイとパパといった存在すらもきちんと生活し性格を持ったキャラクターとして描かれている。

重い映画なのであれこれ事前に情報を仕入れるよりまっさらに近い状態で観て、後で考えたほうがいいと思う。もし、注目すべき映像を内容に関係なく挙げるとすれば、冒頭のミュンヘン・オリンピックでのテロの記録映像とフィクションの映像が見事に融合している一連のシーン、都市ごとに微妙に色味や質感を変えているというカミンスキーの妙技、それにスピルバーグとしてはかなり珍しい濃厚なセックス・シーン、でしょうか。70年代に行ったことがあるわけではないけど、東京と違いその当時と現在で全然違う顔をしているわけではないロンドンやパリやローマが、街並みをさっと捉えただけで説明なしにそこにいるというぐらいすごく象徴的に描かれているのに驚かされた。しかも、別に各々現場で撮ったわけじゃなく、ハンガリーのブタペストにそれぞれの街並みを再現したらしい。
オランダへの暗殺行脚では、現場に行くのに自転車専用道を自転車で走っていくという笑っちゃうようなシーンもあるんだけど、『パルプフィクション』の冒頭でトラボルタが得々と語るアムス土産話に近いものを感じたりして。



個人的に一番好きだったシーンは、主人公たちイスラエルの暗殺チームが、セーフなはずの隠れ家で敵のパレスチナ人たちと鉢合わせしてしまい、口八丁でごまかしてその場の難は逃れたものの、ラジオのチャンネル争いで一波乱というところ。おいおい、そりゃねーだろっていう解決法を取る(モロにネタバレ知りたいひとはコチラに詳しい記述アリ)わけですが、まぁこういうベタに音楽と文化の差異を絡めるような表現は嫌いじゃない。

ミュンヘン スペシャル・エディション
ミュンヘン スペシャル・エディション