歳くって自然体は意外に難しい InK Live @Liquid Room Ebisu

前日徹夜で完全にバッテリー切れになり午後少し仮眠をとっていたらMマネージャーから電話があって、「今晩のライヴ、来ませんか?」と言われて目が覚める。すっかり忘れていたけども、InK=石野卓球川辺ヒロシのユニットのデビュー・ステージがリキッドであるのだった。
行きたい、でも行けない…みたいな苦悩をほんの数秒だけして、電話口で「行きます!」とハキハキ言ってしまった。そこから、本当はもう少し眠ろうというつもりだったんだけどいくつか仕事を片付けて、どうにか本番ギリギリにタクシーで会場に駆けつける。入り口で瀧見さんに会って軽くあいさつすると、なんだか急にZOO〜Slits時代のことがブワッと蘇ってくるようだった。ある程度は予想していたけど、スチャダラや高木完とか、当時の空気を思いっきり吸って輝いていたおっさんたちが大集結していたよう。それぞれがバラバラの場所でもがいていたりとかもするのかもしれないが、みんなきっちりいまでもかっこいいんだよな。そういえば、最近知ったのだけど、ZOOの店長だった山下さんがいま代官山UNITの地下でゆかりの深いメンツを集めてパーティやっていたり、いまだにそういうネットワークみたいなものが生き続けているんだなぁと思うと、感慨深い。小野島さんは来ていたようだが、それこそEMMAくんやTKDがいたりしたら……まぁそんな懐メロの同窓会でゴーという感じの雰囲気では全然ない、健全で若々しいフロアだったんだけども。

カセットテープ(ちゃんとソニーの70年代末のBHF=グリーンとかCHF=レッドを再現している。意味不明なひとはココとかこっちとか参照のこと)を模した巨大なオブジェの上にステージを組んで、かなり高い位置から歌ったり踊ったり喋ったりする卓球は、その立ち位置にそぐわずなんだかとっても自然体で、楽屋でかなり酒の入ったころに見られるようなくだらないことを連発してどんどん饒舌になって止まらなくなる感じが数曲に一回繰り返される。横でじっとそれを待つ寡黙な川辺氏との対比がまたおもしろい。おっさんふたりで肩肘張らないでやりますよ、というスタンスは頑なにアンコールを拒み続けた電気のライヴとは違って、少し恥ずかしそうに声援に応えて再登場し、「曲がないんですよ」と同じ曲をもう一度やるという信じられないくらいのゆるさにも顕れていた。
前回、一回こっきりだと割り切って加齢の醜態も過度の期待も全部笑いに転化っていうすごい計算しつくしたイベントだった電気×スチャの瞬発力があって、余計にそう感じるのかもしれない。でも、長く続ける意志があるようなこのユニットでの音は、その思いっきり懐古に走ったヴィジュアルとは裏腹に、ハウスとテクノとダブとロックとの狭間を漂ってる、イマドキのヨーロッパの中年DJたちが取り組んでる音とちゃっかりリンクしていたりする。「あ、なんか抜けたなぁ」というちょっと羨ましい感じが、ひしひしと伝わってくるのだ。
CDで聴くより石野色が強いかな(半分くらいの曲で彼の歌が入ってるからということではなく、陽水の「氷の世界」のカヴァーというその日だけの贈り物のチョイスだったり、また細かい音色だったり)という印象を受けた。「まだ不慣れなもので」と何度も言っていたし、そんなにフックがあるとは言えない比較的淡々としたInKの世界をどうやってステージで構成するかは、今後の課題なのだろう。6月にUNITでやるという次回のライヴも観てみたいと思った。