“日本のアニメが売れない”は本当か?

http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0901/28/news115.html
上記は先日のITメディアの記事で、今もトップを争うアクセスを集めているもの。こういうセンセーショナルな内容は皆興味があるのだろうが、「テレビ東京傘下のアニメ専門チャンネルエー・ティー・エックスAT-X)取締役」の岩田氏が講演したという内容を無検証にたれ流しただけと見られるこの記事は、ちょっと眉唾もんであると感じる。

大きくわけて
1. 市場の飽和
2. 世界的な不況・経済状況の影響(プラス、円高による利益の減少)
3. 動画共有サイトの違法配信
という理由により、もう日本のアニメは海外では売れない状況になっているという。

さらに国内でも06年をピークに売上高が縮小しはじめていて、地上波のビジネスモデルが揺らぎ始めている現在、危機的状況にあると解説している。

まず、海外のマーケットにおいて、なぜ・どのように市場が飽和しているのかこの記事では触れられていないので、具体的な状況や深刻さがわからない。「ポケモン」以降日本でもメガヒットになっているような作品がアメリカはじめとする欧米でもしっかりと商売になるようになったが、それがもう限界に来ているということなのだろう。まぁ肌で感じる、数字が出始めてしまってる現実、という感じか。しかし、そもそもヒットするしないはかなりバクチ的な要素があるエンタメ作品で、97年からたった10年のトライである。いくらなんでも投げ出すのがはやすぎないか? あらゆるマーケティングを試み、欧米人の心を掴むようなローカライズ(翻訳+α)を施し、きちんと成功の方程式を導き出して、それをちゃんと予算をかけて適用したにも関わらずうまく行かなかった結果なのか。ハリウッド並の歴史と経験の蓄積があって、それで「○○の市場は飽和状態」とか分析しているならまだわかるけれど。
不況うんぬんは、どんな業界だって影響を受けているわけだから、これはあまり理由に挙げても意味がない。任天堂は2009年3月期の業績予想を円高などの影響で下方修正したが、それでも過去最高の売上高と営業利益を確保と発表した。不況になれば巣ごもり現象がおきて、高くつく旅行や外遊びでなく比較的安価な映画やゲーム、音楽などのエンターテインメントに遊興費が移るということがよく言われる。不況のときほど強いのだと。そういう要素もあるはずなのに、とてつもないマクロな経済の話をここに混ぜるのはどうも根拠不足に思う。
さらに、動画違法配信うんぬんの話。まぁ、これもたしかに原因のひとつであろうというのは誰でもわかる。でも、新しい話題かというとまったくそんなことはないはず。違法コピーされたものが堂々と流通してしまうというのは、こういう海外でのANIMEブーム的な流れの先鞭をつけた『AKIRA』のころからずっとあった。というか、『AKIRA』はあまりにそのへんが杜撰でほんとうは実績の何倍もの利益が得られるはずが、大量の海賊版にやられてしまったという話すらある。たしかに、Youtubeは05年にサービス開始、06〜07年にかけて爆発的に広まっているから時期的には合致しているものの、“「日本でアニメを放送された翌日には、現地語の字幕を付けてネットにアップされてしまう」ため、日本で放送終了した作品を海外に販売するころには、海外ファンはすでにそのアニメを見ており、視聴率が取れなくなる”というのは本当か。P2Pの影響でDVDが売れなくなるというなら話は別だが、Youtube程度の画質でしかも何分割にもされたファイルを見ただけで、「もう見なくてもいいや」となるほどアニメファンの忠誠度は脆弱だったっけ? それは世界共通というより海外のファンであれば、いまどきの日本のぬるいファンよりもっと熱心なのではないのか。

国内の売上高という部分に関しては、ジブリ作品に大きく左右される数字だけに、06年をピークに縮小みたいなことを言ってもあまり意味がないのではないか。音楽産業の売上がずーっと下がり続けてるとかの明確な傾向と数字と原因がわかっていてさぁどうしましょうというのは、データの意味が違います。
特に劇場用アニメの数字。
03年51億円 04年166億円 05年159億円 06年306億円 07年242億円 (劇場アニメ全体)
03年ナシ 04年〜05年「ハウル」196億円 06年「ゲド」76.5億円 07年ナシ (ジブリ作品の興収)

06年「ゲド戦記」の数字は低めだが、他にドル箱定番の「コナン」「ワンピース」「NARUTO」「ポケモン」「ドラえもん」があり、「Zガンダム」「時をかける少女」「鉄コン」など、一般レベルで話題になる作品も多かった。まちがいなく「ポニョ」(興収154億円)効果で08年は盛り返すと思うし。売上高というのがどういう計算で行われてるのかわからないが、ジブリ作品の場合ビデオグラムの売上、関連商品、さらには音楽、テレビまであらゆる面で影響を及ぼすだろうから、いっそそれ抜きで計算してくれれば、もう少ししっかりした分析ができるのじゃないかとすら思ってしまう。

はぁメディアの側も根拠もなく持ち上げてみたりそうかと思えばいきなり突き落としたり忙しいこって、と思うけど、なんかこのような一面的な談話がいかにも信憑性のある話みたいに記事になって、まぁおそらくあっという間に「アニメ業界やばいらしいよ」的な話題として広がってしまうのはどうなんだと。現場の人が危機感を共有していくためのステップだとか、それがいい意味で質に反映されるんだということならまだいいとは思うけど、テレビ局のお偉いさんが現場の人かというと、まぁかなり微妙なところですよね。
ぶっちゃけこれって、バブル的な状況にのっかってほくそ笑んでたコンテンツホルダーだったり権利者たちが、表面的な部分だけを見て戦々恐々としてるって図式にしか見えないのです。

(※まぁ最後の部分読むと、この宣伝的な部分を書いて欲しかっただけなんじゃないの、とも思えるし…)

検索していて見つけた、昨年の同様の主旨の日経ビジネスの記事、こちらのほうが具体的な数字や背景がしっかりと盛り込んだ分析がなされていて説得力がある。また現場のスタッフの話や浮上のための提案にまで踏み込んでいて、好感が持てる。