ロラン・ガルニエの魂に触れる

脚も棒のようになってきてたし正直眠かった。金曜のパーティーは体力勝負なのだ。でも、たった3時間半程度のプレイでは短いなぁという印象が残ってしまうのがロラン・ガルニエのロングセットを基本にしたDJプレイを長年楽しみにしてきたひとたち共通の感想じゃなかろうか。客層やハコの性質を考えると、フロアでの快適さや音の良さと引き替えにageHaのパーティーではあれくらいで我慢しなくちゃいけないんだろう。
あと、ちょっと失敗したのはフロアでおしゃべりに夢中になってしまって、そろそろ音に集中してもいいかなと思ったころには終盤戦(2ステップ〜ブレイクス系の曲からドラムン・ベースに流れたあたり)だったという点。少し具合が悪くなってしまい「Big Fun」や「Pump The Move」といった名曲が繰り出されるケヴィン・サンダーソンのライヴは悔しい気持ちでフロアの外で座って聞いていたから、その反動でローランの前半にはじけすぎてしまったせいもあったかも。「French Kiss」あたりの超定番はまぁアレだけど、「Age Of Love」がドロップされたのには驚き。思わずパスも持ってなかったのにブースに駆け寄って、がっちり握手してしまった(笑)。

で、そんな瞬間があると嬉しくなって、隣でものすごい勢いで踊ってた女の子に、「この曲、知ってる?」なんて聞くと、当然「しらな〜い」とかって返されるわけですが、まぁそれでもあの世にいってしまったマーク・スプーンのことを思ったり、15年前にふっと気持ちが戻ったりして、いまだに腰をふってお気に入りの曲にあわせて唄いながら元気にフロアをロックしてくれるロランのような存在にホントに感謝したくなる。

さて、以前予告していたロラン・ガルニエの自伝『エレクトロショック』、その分厚い内容に圧倒されながらもようやく最後まで読み通した。僕らが知ってるロランは、最初からFNACというレーベルをやっていて、フランスを代表するDJで、アーティストとしてもWarpやFragileから出してるすごい人物で、実際会ってみても親分肌で面倒見のいい兄貴という感じだった。政治的な発言も多く、いつもテクノやもしくはフランスのシーンの行く末について考えていたし、頭のネジが緩んでしまったようなちゃらんぽらんなひとも多かった初期のシーンでは、そんなに多くのことを背負いこまなくてもいいのにと余計な心配をするほど真面目な顔を見せることもしばしあって。
しかし、当たり前だけど、そんなロランにも何も考えずに人生のすべてを週末のパーティーに捧げてバカ騒ぎしていた時期があったし、脇目もふらず遊びつづけながら、どうやったらこの音楽を、素晴らしい体験をひとりでも多くのひとに伝えられるか思案して苦労した長く大変な時期があったわけで、そのあたりに一番の親近感を持ったし元気をもらった。

ちょっとネタバレると、イギリスの違法レイヴでDJしてたら警察の手入れにあい収監され、檻の中でバキバキになってしまうというエピソードや、ごろつきオーガナイザーに騙されて独りNYで大変な目に遭うというくだりとか、サイコーです。

当初は信じられないくらいのエネルギーと情熱とが渦巻いていたクラブやレイヴ。幸運にもその初期のマグマだまりのような爆発寸前の熱さに触れられた者たちは、それをどうやって自分なりに消化できるのか、どうやってそれを現実世界にフィードバックするのか、どんな形でそこにコミットできるのか、考えたはずだ。DJという才に恵まれ、幸運にも多くのダンサーに愛されたロランのような人間は、まったくあたらしい音楽が作るまったく新しい環境に職を得て、一方ではイノヴェイターとしてもてはやされながら、他方では想像を絶するような経験をこれほどまでにしてきたのかと衝撃を受ける。きっと、ここでの告白などほんの一部でしかないはずだけれど。
さらに後半では、自分の仕事や音楽に真摯であるからこそ、どんどんスターシステム化していくDJの世界や、大企業の広告の場や単なる薬物消費の場に堕してしまうパーティーをかなり実名をあげて批判しながら、それでも我が道を模索していくというような内容になっていく。自然に笑いがもれる前半と違い、かなりシリアスな色が濃くなって、読んでいて辛さが先に立ってしまうことも多い。ほんの少しだけ書かれているけど、フライトアテンダントすら経験しないような長時間の移動、夜型で不規則な生活、大音量やストロボライトでやれれる耳と目、それに重いレコードを持ちあるくことで背骨や肩へかかる負担。そのどれもが「そんな思いをしてまで続けるの?」と、この音楽に興味のない人になら言われてしまうような、受け取るものに見合わない犠牲かもしれない。
だから、もうDJライフのまとめに入って回顧録として出版した、そんな内容の本と勘違いしてもらっては困るのだ。たぶん、ageHaの満員のフロアで驚喜のダンスを踊っていた若者たちの大半が、こんな本の出版されたことすら知らないだろうけれど、ほんの一時の週末の遊びと刹那的にパーティーに来てるようなひとたちにこそ、知ってもらいたい話だと感じる。本国ではベストセラーになったというこの本が、ずっとフランスと日本のDJカルチャーの架け橋になってきたやはりDJのアレックス(フロム・トーキョー)の手によって翻訳されているということも、学術的にDJカルチャーを考えるような層にだけ向けての出版でないことは明らかだと思う。

ロラン自身は、どちらかと言えばハウスの文脈で捉えてもおかしくないDJだと思うし、自身もデトロイトに負けないくらいシカゴへの愛を語りつづけているけれど、ここではずっと“テクノ”というタームにこだわりつづけているのも、嬉しい。たぶん、彼にとっては単なる音楽のレッテルにとどまらず生き方や考え方を反映し、そして自分の表現を一番積極的に受け入れてくれた文化、それがテクノだったんじゃないかと。

たぶん、今晩の山中湖でのプレイは、今回ずいぶんアレックスと一緒に楽しんだらしいツアーを締めくくる、すごいものになりそうな予感。俺はさすがにこれから行けないけど、近い人は出番ラストらしいので夕方目指して行ったらどうですか(音だけなら入場しなくても聞こえるという噂もあるし)。

エレクトロ・ショック
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