Extrawelt / Schone Neue Extrawelt (Cocoon)

Schone Neue Extrawelt
Schone Neue Extrawelt

08年の良作と言えば、元々トランス方面で活躍していたMinilogueが必ず挙がると思うけど、彼ら同様トランス(Midi Milz、Spirallianz等の名義で)のアーティストとしてきちんと地位を築いていたアーティストが、もっとストイックなテクノや硬派なハウスの世界に殴り込みを果たしたのが、このExtrawelt。シングルで展開していた圧倒的インパクトまでは及ばないかもしれないけれど、なかなかおもしろいアルバムだった。以下レビューより転載。

 ハンブルグ出身のアルヌとヴァイアンからなるデュオ。近年力を入れているこの名義では初のアルバムだ。ジェームス・ホールデンのボーダー・コミュニティーからリリースした初シングルで脚光を浴び、かのレーベルに特徴的な音というのをネイサン・フェイクらと共に形成した。それはつまり、フリーキーでサイケデリックな要素を多分に持ったハウスとテクノの中間に位置するような音であり、エレクトロニカ的な職人芸とバッドトリップがファットなビートの上で結ばれた瞬間だった。元々はサイケ・トランスの分野で活躍していたというふたりだけに、ズブズブと暗い闇の淵を潜行していくようなダークな曲調は得意とするところなのだろう。そして、そのプロダクション技術はさすがという感じで、この独特の酩酊感やグルーヴを維持しつつも地獄の宴みたいな一種のハレ状態を醸し出せる彼らだからこそ、コクーン=スヴェン・フェイトも魅入られたのだろう。

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Monika Kruse / Changes of Perception (Terminal M)

Changes of Perception
Changes of Perception

モニカ様もハード・ミニマルからの転身を図ってるDJのひとりだと思うけど、ただなぞるように(今主流のディープな)ミニマルをやってみましたって程度の内容ではないところがさすがの年期だと思う。アルバムを手伝ってるグレゴール・トレシャーも今年アルバムを出していて、その昆虫大集合のユニークなキモかわヴィジュアルに負けないシャープでありながら濃い作りは名匠のごときでありました。


まぁ同じようなことを言ってるんだけど、まじめに書いてるレヴューは↓

 旅や移動をテーマにした前作『Passengers』から約5年。制作面でのパートナーだったパトリック・リンジーとのコンビも解消し、シンプルに自分の名前だけで勝負した3作目。今回片腕となってるのはフランクフルト出身でまだ30そこそこの若きDJ/プロデューサー、グレゴール・トレシャー。グレートスタッフなどで活躍する彼の起用が功を奏したか、ヒプノティックでフリーキーなミニマルを基調とした高レベルのダンス・アルバムが完成。かつてはゴリゴリのハード・テクノをプレイし、自らのレーベルでもそういった曲を進んでリリースしていたモニカだけに、まるでリッチー・ホゥティンかというような静かな狂気が襲い来る冒頭から、全体に抑えられたトーンで構成され淡々とした印象を受けるのは驚きだ。ただ世界的な趨勢の変化に従ったのではなく、自分のコトバとしてこういう音を鳴らしているのは明白で、特に細やかな音への気配りと構成には舌を巻く。

A Thousand Nights
A Thousand Nights

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Deadbeat / Roots and Wire (Wagon Repair)

ROOTS AND WIRE
Roots and Wire

結構キャリアがあるひとのようだけど、これで初めて聴いた。ベーチャンというかリズム&サウンドやラウンドのシリーズと直結したダブ〜レゲエをベースにしたサウンドは別に目新しくはないけれど、どこかほっこりさせられるような感触がある。トータル8曲というコンパクトなアルバムながらヴァラエティ豊かであり、特にアフロビートというか原住民的トライバル・ダンス+ダビー・エフェクトで、なんかヤバイ煙を吸わされて火の周りで奇声を上げて踊ってしまうようないいピークを作ってる3曲目がおもしろいです。これだけをもってミニマル・ミーツ・ダブステップとか言ってしまうのもどうなんだって気がするけども、とにかく新しいことをやろうとしてるのは確か。個人的には、カリ・レケブッシュとかのスウェディッシュ・テクノ勢が全盛期に積極的にレゲエの要素を取り入れた曲を作ってたんだけど、あれをヒジョーに想起させられた。ダビーだけど硬質というのは、やっぱりテクノ(前回はハードミニマル、今回はいわゆるクリック〜ミニマル)を通過したところの焼き印みたいなもので、DJ的な視点でも取り入れやすいだろうし、リスナー的にも入って行きやすいんじゃないだろうか。
マシュー・ジョンソン同様、このひともカナダ(モントリオール)からベルリンへと拠点を移したそう。やっぱりあの場所にはそういう磁場があるのかな。ますます一極集中になってる。

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Recomposed by Carl Craig & Moritz von Oswald

Recomposed by Carl Craig & Moritz von Oswald
Recomposed by Carl Craig & Moritz von Oswald

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ドイチェ・グラモフォン企画のこのシリーズは、ジミー・テナーやマティアス・アルフマンがこれまで手がけていたようだけど、今回のカラヤン指揮によるベルリン・フィルの音源をカール・クレイグとモーリッツィオがサンプリング&再構成してチルアウト〜ダンスに仕立てるという試みはたぶん、ここ15年のあいだに少しはクラシックに興味もあるテクノ者が誰しも夢想しただろう夢の共演とも言えるような内容だ。しかも、やってるのはラヴェルムソルグスキー。実際、おいらもクラブで「ボレロ」を延々かけたことがあるけど、あれは構成から音色から繰り返しの気持ちよさから、まったくトランスなんだってことはずっと言われてた。今回、まさにそれがアーティストの側から立証されたような素晴らしい企画だろう。最初、モーリッツに持ちかけられた企画が、モーリッツの発案でカールも呼び込むことになり、音源は海を渡り、ふたりのテクノ・マエストロの手によって新しい命を吹き込まれている。
だれしもこれを聴くと、ゲッチングの「E2-E4」がデリック・メイカール・クレイグの再解釈で新しい生を受けて、それこそいまでもあのご老体がメタモルフォーゼみたいなフェスでメインアクトとして歓迎されることにつながっているのだというようなことに思いを馳せるだろう。「ボレロ」や「展覧会の絵」なんて定番中の定番とも言えるけど、それを敢えてピックアップして、ここまで豊穣なトランスに仕立てたのは感服に値します。グレート。

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Fabric 42 (Mixed by Ame)

Fabric 42
Fabric 42

実際の原稿ではカットされてしまったけど、「remix」誌の年末ベスト特集でテクノ〜ハウス系のライターが集まって今年を振り返るという鼎談で、Ame(アーム)の話題が出て、ハウス担当のNagiさんが「Ame周辺って、もうディープ・ハウス界隈ではいまいちというか…」とあんまり評価してない感じだったのに、俺含めテクノ側からは一斉に反論が出たのがなんか面白かった。実際に彼らのDJプレイを生で聴いたことはないんだけど、最近ではめっきり買わなくなってしまったミックスCDで、今年かなり気に入ったうちの一枚がこれ。もちろんハウス的な色気や生っぽさは残しつつ、ミニマルやテクノの躍動感をうまく取り入れた感じですごくきもちいい。ラストに向かってジワジワとシカゴ的な荒っぽさを増してアッパーになっていくのもいいかんじ。これは要するに、ガルニエとかが得意としてきたハウスのテクノ的な解釈というか、ヨーロッパ・フィルターを通したハウスなんだと思うけど、こういうのを心底楽しめるような箱(まぁ言っちゃえばYellowなんだけど)がなくなってしまったのは、やっぱり痛いね。
ラストが、LFO vs. Fuse / Loopなのが、本当に泣けてくる。

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Kenny Larkin / Keys, Strings, Tambourines (Planet E)


Keys, Strings, Tambourines
Keys, Strings, Tambourines

なんかこの盤、アマゾンでずっと買えないです。
最近、こういう現象が増えているような気がする…。ディストリビューターが機能不全になってることと関係あるのかないのか? これも今年の名盤に数えられる盤だと思うから、はやく普通に買えるようになって欲しいところ。つーか、年間ベストとか発表されるこの時期に在庫切れって、商機を逃しているというか、やる気がないとしか思えない。

 これがデトロイト・テクノの真髄だと言わんばかり。音楽的で自由で叙情的で、ファンクもソウルもある。デトロイトの勃興に携わった古いアーティストの中で唯一創作にDJにレーベル運営にと挑戦を続けているカール・クレイグが、同時期にデビューし、最近は随分とくすぶり気味だったケニーの作品をこうやって支援し、素晴らしいアルバムとして結実させたのは感慨深い。ギャラクシー2ギャラクシーやロス・エルマノスみたいに音楽としての楽しみや理想型を生演奏に求めるあまりフュージョン・バンドかよという方向に行ってしまうのもナシではないと思うが、機械の生みだすビートの魔法と旋律のエモーションに全力を注ぎ、最新のモードやフロアの息吹も吸収した上でしっかりと自分の原点に立ち返るというものすごいアクロバットを成立させてるこのアルバムは、奇跡的な輝きを放ってる。先にケンイシイにこういうことをやって欲しかったが…。


HMVでは買えます。
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Heartthrob / Dear Painter, Paint Me (Minus)

Dear Painter, Paint Me
Dear Painter, Paint Me

幕張であった渋谷WOMB主催のイヴェント<Womb Adventure>に行ってきた。メッセの味気ないコンクリむき出しの寒さが増すような味も素っ気もないステージング&ライティングがらしいなぁという、MINUSアーティストのショーケースがメインのホール(隣では、HadokenとかShitdisco、Dexpistolsとかのファッション系のニューレイヴ〜エレクトロ)だった。11時くらいに着いたらガラガラで「これはやばいんでは?」と思ったが、1時を回るくらいには踊るスペースが見つけにくくなるくらい混雑して、結果としては成功の部類だと思う。
音も、前座のFabrizio Mauriziがやってるころはか細いというくらいで心配になったが、だんだんと音量も音圧も上がっていった印象。
で、メンバーの中でも中心的役割を担っていた(であろう)Heartthrobの初夏に出たアルバム。ステージに常に複数人が立って複数の音をセッション的に出し入れしていた実験的な今回の取り組みは、正直言うと、客の熱気に比べて(あんな何千もの人があんな地味な音で、しかもキックが入った瞬間とかに「うぉおおおおお」ってなるのは日本ではありえないとずっと思ってました)プレイ自体は驚きがないというか、つまらないというわけではないんだけど妙に醒めた感覚を呼び起こされてしまうことが多かったように思う。一方、このアルバムで聴ける音は、ときにシネマティックに感じることもある、クールネスの中に生体的なうねりというか、おもしろさを見つけられるものだっただけに、ちょっと残念だった。リッチーが出てきてからの後半は盛り返したようにも思ったが、Magdaにしろこのひとにしろ、リッチーの影響下から離れたところで何をどうやっていくかがもっと問われてもいいんじゃないかな。一時のURもそうだったけど、ちょっとこのところのMINUSはファミリー色を打ち出しすぎて気持ち悪い。

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